東京地方裁判所 平成10年(ワ)21771号 判決 1999年6月01日
原告
室屋亜樹
ほか一名
被告
神山豊
主文
一 被告は原告室屋亜樹に対して金八一一万二六〇七円、原告室屋浩孝に対し金三〇〇万円及びそれぞれに対する平成九年一二月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分しその一を原告らのその余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の申立
一 被告は原告室屋亜樹に対して金一一三一万二六〇七円、原告室屋浩孝に対し金五〇〇万円及びそれぞれに対する平成九年一二月一日から支払い済みまで年で年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行宣言の判決の言渡しを求めた。
第二事案の概要
一 本件は、停車中の車両に同乗していた妊婦及びその夫が、これに追突してきた車両の運転者に対して、胎児が死亡した等の損害について、民法七〇九条に基き損害賠償を請求した事案である
なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。
二 争いのない事実等
1 本件交通事故の発生
(一) 日時 平成九年一二月一日午後一一時五〇分ころ
(二) 場所 東京都江東区南砂二丁目三六番地
(三) 当事者
(1) 原告車 普通乗用自動車(習志野四五や三〇三五、運転者・訴外長島藤雄、同乗者・原告室屋亜樹)
(2) 被告車 普通乗用自動車(足立三四ろ三五三八、運転者・被告神山豊)
(四) 態様 原告車が、明治通りを葛西橋通りに向けて進行し、葛西通りを葛西橋方面へ右折する右折車線に停車中の数台の車両の最後尾で停車中、後方から被告車が追突した。
(五) 責任原因 被告は前方注視義務に反し、停車中の原告車に被告車を追突させたもので、民法七〇九条により、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
2 原告室屋亜樹の傷害の内容及び治療の経過
(一) 傷病名 子宮内胎児死亡(妊娠三六週)。
(二) 治療状況
(1) 聖路加国際病院 平成九年一二月二日から同月九日(入院八日)同年同月一七日から平成一〇年一月一四日(実通院日数四日)
(2) 西村歯科 原告室屋亜樹が本件事故により顔面を助手席のシートにぶつけた衝撃により差し歯が抜け落ちその治療として
平成九年一二月一四日から平成一〇年一月一四日(実通院日数三日間)
三 原告らの損害についての主張
慰謝料を除いて、原告室屋亜樹の損害として請求。
1 治療費関係
(一) 治療費 合計 金一万八四四〇円
(内訳)
聖路加国際病院 金八四〇〇円
西村歯科 金六九四〇円
木場調剤薬局 金三一〇〇円
(二) 付添費 金四万八〇〇〇円
原告室屋亜樹の精神状態が不安定であったため、原告室屋浩孝が付き添った。
(三) 入院雑費 金一万〇四〇〇円
(四) 交通費 金三万五七六七円
(内訳)
タクシー 金二万九三四〇円
電車代 金三八四〇円
ガンリン代 金二五八七円
2 慰謝料 金一五二〇万円
(内訳)
原告室屋亜樹 金一〇二〇万円
原告室屋浩孝 金五〇〇万円
3 弁護士費用 金一〇〇万円
四 争点
胎児死亡による慰謝料の額
第三裁判所の判断
一 胎児死亡の慰謝料について
本件において、甲第三号証、第六号証及び弁論の全趣旨から、原告室屋亜樹が胎児を失ったのは、妊娠三六週であり既に正期産の時期に入っており、当時胎児に何らの異常はなかったこと、現在の医療水準を考えれば胎児が正常に出産される蓋然性が高いことが認められる。すなわち、本件において死亡した胎児は、まさに新生児と紙一重の状態にあり、これを失った両親とりわけ母親の悲しみ、落胆は相当なものであるというべきである。このように考えると、法律の建前として法人格を有する新生児と胎児の取り扱いに区別を設けることはやむを得ないとしても、出産を間近に控えた胎児の死亡についての損害賠償額は、それなりに評価されるべきと考える。
このような観点から、本件においては、慰謝料として母親の原告室屋亜樹については金七〇〇万円、父親である室屋浩孝について半額の三〇〇万円を相当な額として認める。
二 その他の損害
1 治療費・交通費
甲第四号証及び五号証によれば、いずれも原告請求どおり認めることができる。
2 付添費・入院雑費
付添費及び入院雑費については、いずれも原告請求どおり認めるのが相当である。
3 弁護士費用については原告の請求どおり認めるのが相当である。
三 損害のてん補
被告は、事故前の産科定期検診料金七万七二一〇円について慰謝料としての弁済をした旨を主張しているが、これを認めるに足る証拠はない。
四 以上からすれば、原告室屋亜樹の請求は金八一一万二六〇七円の支払い、原告室屋浩孝の請求は金三〇〇万円の支払い及びそれぞれこれに対する平成九年一二月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるので、これを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法六一条、六四条に、仮執行宣言について同法二五九条一項に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 馬場純夫)